「くそくそ!宍戸の勝ちかよ!」

「残念だったな。」



部活中、何やら楽しそうに盛り上がっているのは、向日先輩と宍戸先輩と・・・・・・って、ジロー先輩?!
ジロー先輩が起きてるなんて珍しい・・・・・・。
そう思った私は、思わず先輩たちの元に駆け寄っていた。



「何してるんですか?」

「賭けだよー。」

「どういう賭けですか?」

「ラリー練習で一番ミスの多かった人は、少なかった人からデコピン!」



楽しそうに教えてくれたのは、そのジロー先輩だった。
・・・・・・なるほど。ジロー先輩も、こういうゲームを取り入れれば、起きてくれるのか。



「それで、一番少なかったのは宍戸先輩、多かったのは向日先輩、ってことですね?」

「そういうこと!」

「宍戸のが一番痛ぇんだよ。うわー、マジ最悪。」

「観念しろ。」

「わーったよ。」



向日先輩は前髪を上げ、ギュッと目を閉じる。
そのおでこに、宍戸先輩が左手を当てた。そして、右手で中指を引っ張り・・・・・・。



バチン!!!



「いっっっっってぇーーー!!!!」

「マジ痛そう!」

「今のは完璧に入ったからな!」

「加減しろよ!」

「加減なんてしたら、罰ゲームになんねえだろうが。」

「くそくそ!・・・・・・まだ痛ぇし。」



たしかに。再び前髪を上げた向日先輩のおでこの一点が、真っ赤になっている。
しかも、さっきのは、単なるデコピンとは思えないほどの音だった。



「すごい、ですね・・・・・・。」

「さっき向日も言ってたけど、宍戸のはマジ強烈なんだ!」

「お前もやってもらうか?なあ、宍戸!」

「えぇっ?!」

「なかなか勇気あるな。いいぜ、やってやる。」

「い、いえ!遠慮しますっ!!それではっ!!」



皆さん、優しい先輩たちだ。きっと冗談に決まっている。
それでも、咄嗟に全速力で逃げ出すほど、宍戸先輩のデコピンは驚異的・・・・・・いや、いっそ脅威的なインパクトだった。
そうして逃げ出した先に、跡部先輩の姿が見えた。
・・・・・・そういえば。元々、ジロー先輩のことが気になって、先輩たちの所に行ってたんだった。跡部先輩なら、ジロー先輩のこともよくご存知だろうけど、一応報告してみよう。



「跡部先輩、今お時間大丈夫ですか?」

「ああ。どうした?」

「急を要することでもないんですけど、ジロー先輩のことで少し。」

「ジロー?」

「はい。ジロー先輩の練習参加率、跡部先輩も気になってましたよね?」

「そうだな。」

「でも!そのジロー先輩が、さっき熱心に練習してたみたいなんです!」

「ほう?」

「何でも、宍戸先輩と向日先輩とで、ミスの多かった人に罰ゲーム、という遊びをやってたらしくて。ジロー先輩も、そういうゲーム感覚なら集中力が続くんじゃないかと!」

「アイツらしいな。・・・・・・だが、気休めにすぎねえな。」

「まあ、長くは続かないですもんね・・・・・・。」

「見てみろ。」

「?」



跡部先輩の視線の先に目をやると、既に定位置で横になっているジロー先輩が見えた。



「もう?!」

「そういうことだ。だが、そうやってお前が気にしてやってること自体、部員全員のやる気につながってるはずだ。」

「そ、そうでしょうか・・・・・・?」

「だから、これからもよろしく頼むぜ。」



事実はどうかわからない。でも、我が部のトップ、跡部先輩にそこまで言ってもらえるなんて、マネージャー冥利に尽きる。



「はい、わかりました!練習中、お邪魔しました。それでは、失礼します!」



跡部先輩から離れた後も、自然と口元が緩んでしまう。
いつまでもニヤニヤしているわけにはいかないけど、この嬉しさを忘れず、マネージャー業に励もう!



「えらい嬉しそうやなぁ。」

「!!」



突然横から話しかけられ、驚いて声の方を見る。
当然、聞き間違えるはずもなく、そこには忍足先輩がいた。



「悪い。そない驚かすつもりはなかったんやけど。」

「あ、いえ。大丈夫です。」



未だに信じられないけれど、私は忍足先輩と付き合っている。
見た目もカッコイイのに、中身もとても素敵な先輩。普段は冗談を言ったり、ふざけたことをしてみたり、楽しい先輩なのに・・・・・・いざという時には頼り甲斐があって、優しくて。学年は1つしか違わないのに、大人っぽいところがある。
そんな先輩から告白され、本当に舞い上がった。そして、今なお、夢心地でいる。
だから、突然声をかけられただけでも緊張してしまった。忍足先輩は何も悪くない。



「そうか。・・・・・・で、どないしたん?何かええことでもあったん?」

「はい、そうですね。さっき、跡部先輩とジロー先輩のことで話してたら、解決策は出なかったんですけど、『これからもマネージャーとして頼む』って言ってもらえたので。」

「それは良かったな。」

「はい。」

「・・・・・・そやけど。」

「?」



今まで優しい笑みを浮かべていた忍足先輩が、少し曇った表情を見せた。



は、俺が褒めてもそないに嬉しそうな顔はせえへんなぁ?」

「そ、それは・・・・・・。」

「わかってんで。彼氏の俺に褒められるんと、部長の跡部に褒められるんとでは、全然ちゃうもんな?のことや。俺からやと、照れとか緊張とかもあったりするんやろ?」

「はい・・・・・・その通りです・・・・・・。」

「それはそれで嬉しいけどな、やっぱり寂しいとも思うで?」

「ご、ごめんなさい・・・・・・。」

「いや、俺のワガママや。が謝る必要は無いけど・・・・・・でも、そうやな。ちょっと罰を受けてもらおかな?」



そう言って、忍足先輩はまた笑みを浮かべた。
罰・・・・・・。その言葉に、さっきの向日先輩の姿が浮かぶ。



「ちょ、ちょっと待ってください!」

「待たへんよ。はい、目つぶって?」



忍足先輩が優しく近寄り、思わずギュッと目を閉じる。
そして、さっきの向日先輩のように、自分で前髪を上げた。



「なんや、おでこ希望か?」

「えっ!?デコピンって、おでこ以外にやったら、もっと痛くないですか??!」

「でこぴん・・・・・・?」

「へ??」



会話が噛み合わず、私は目を開けた。忍足先輩も少しポカンとしている。



「俺『デコピンする』なんて、一言も言うてへんよ?」

「そ、そうでしたね・・・・・・。」



恥ずかしい!!
勝手に勘違いして、勝手に怯えてテンパって・・・・・・。



「『目つぶって』で、デコピンやと思たん?」

「はい・・・・・・。さっき、向日先輩が宍戸先輩にされてるのを見たので・・・・・・。」

「ああ、アイツらな。俺も岳人が『宍戸のが一番痛い』って言ってんの、聞いたことあるわ。なるほど・・・・・・ホンマ可愛らしいなぁ。」



忍足先輩がくすくすと笑う。
・・・・・・本当、恥ずかしい。何とか話を変えよう。



「それで、先輩はどんな罰をしようとしてたんですか?」

「俺?俺は・・・・・・じゃあ、今度は目開けたままでええよ?」

「?」



忍足先輩の方を見ていると、先輩が少し屈んだ。
そして、私の頬にチュッと・・・・・・って・・・・・・。



「先輩っ?!!!」

「普通、『目つぶって』って言ったら、こういうことやと思うけどな〜。」

「な、な、何言って・・・・・・!!」

「こっちの方が照れるし、緊張もするやろ?そやから、俺に褒められるぐらいは、少しはマシになってや?」

「だからって、部活中に・・・・・・!」



自分で言ってて思い出した。今、周りには部員たちがいる。
慌てて辺りを見回した。



「大丈夫。誰も見てへんて。見てたとしても、一瞬のことやし、何してたかまではわからへんよ。」

「そういう問題じゃないですっ!!」

「じゃあ、何が問題なん?もしかして・・・・・・俺にされるんが嫌、とか?」

「そ、そういうわけじゃ・・・・・・。もうズルイです、先輩。」

「一応“罰”やからな。多少はに困ってもらわんと。」



そう言って微笑む忍足先輩は本当格好良くて、本当ズルイ。



「・・・・・・って、自分で“罰”言うてもうてるやん。ホンマはに嫌がられるって思ってたんかもしれへんな。」



今度は少し苦笑気味に言う忍足先輩。・・・・・・だから、本当ズルイです。
ズルイと思ってはいるけれど、忍足先輩にそんな寂しそうな表情をさせたくないとも思ってしまうわけで。



「そんなことないです。恥ずかしかったですけど・・・・・・忍足先輩にしてもらえて、・・・・・・嬉しかったです。」

「おおきに。ほな、今度はそうやって素直に言うてくれたご褒美に、次こそおでこにしよか?」

「い、いりません・・・・・・!!」



ほら、やっぱり。さっきの寂しそうな顔はわざとだったんだ。
わかってたけど、仕方ない。だって、そんなところも好きなんだから。
・・・・・・でも、そうだ。今度、宍戸先輩にデコピンのコツを教えてもらおう。こんな忍足先輩こそ、罰を受けてもらわなきゃね!













 

そして、次は宍戸さんと仲良くしていた、ということで、結局また忍足さんからの罰を受けてしまうさんなのでした(笑)。

このネタは、約10年ほど前に「目をつぶる→デコピン、という発想になる年下の天然系ヒロインを書きたい!」と思い、メモしていたものです。・・・ってか、10年て;;
それに加えて、OVAでの芥川さん&宍戸さん&向日さんトリオを思い出して、この三人の仲良い感じも書きたいなぁ〜と。あと、デコピンと言えば某宍戸さん役の方が強かったなと(笑)。
何にせよ、私には懐かしい気持ちがいっぱいのお話です(笑)。

('15/05/05)